B:冷徹なる狙撃手 グナース・コメットドローン
これまでドラゴン族の影に怯え、ほとんど領地を出ることがなかったグナース族が、妙に活動を活発化させている。
あげく、食料を集めるための狩猟程度にしか、用いていなかった火砲を、戦いの道具にし始めたらしい。テイルフェザーの猟師が、グナース族に狙撃されるという事件さえ起きているんだ。奴らの狙撃手を、排除する必要があるだろう。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
霊峰ソーム・アルの麓に棲み付く我ら蛮族グナース族が強気になっていると巷で噂されているがその大きな理由の一つは、彼らが信仰する武神ラーヴァナの神降ろしに成功した事が上げられる。
元々は竜族に対する対抗策としてその神降ろしが進められていたが、実際に蛮神が後ろ盾として存在していることの精神的余裕ははかなり大きい。
もう一つの理由は今まで狩猟に使う事しか頭になかった火砲を争いで使えることに気付いた事だ。
オイラが言うのもなんだが我がグナース族はルーツを昆虫に持つせいか簡単な事にも知恵が回らない。獲物を傷付けるのに使うのだから当然武器としても使用できることは分かり切っているのに、狩猟以外で使用するという発想がまるで出てこなかった。敵に近づかずに済み、殺傷能力の高い飛び道具である火砲を争いで使えることに気付いた、この事は元来臆病な種族であるグナース族の性質に変化をもたらしたのみならず、飛び道具の扱いに長けていること以外に能がなく、部族の中でもつま弾きにされていたオイラに転機をもたらした。
思えば物心ついたころからオイラは部族の中でいつも迫害されてきた。それはオイラが「繋がれし者」の集落にあって数少ない「繋ぎ止めし者」と繋がっていない「分かたれし者」だからというだけじゃない。何をやらせても不器用で、何をやらせても上手くやれず、空気が読めずに失敗ばかりして和を乱す存在だったからだ。それは意識を一つにできる「繋がりし者」なら起こり得ない事だ。
そんなオイラにも得意な事があった。「狙撃」だ。そもそも狩猟は集落の全員で行う。参加しなかった者には分け前がないから嫌でも参加する必要があるのだが。とびきり臆病なオイラは獲物に近づく事も怖くてできないが、参加しない訳にもいかない。だから獲物に近づかなくて済む狩りの方法を模索して、編み出した戦い方だ。オイラは恐怖を糧に狙撃の練習に死に物狂いになった。狩りのときは遠くの物陰から獲物の急所を狙い仕留めた。それを続けているうち、狩りには必ず連れて行かれるようになったし、今は他種族との争いにも狙撃手として頼りにされ、こうして駆り出されている。相手には見えない距離や死角から攻撃をして相手の主力となる人物を仕留める。これで戦況が大きく変わる。オイラは部族の中でも尊重されるようになった。
今もそんなことを考えながら小競り合いを100m近く離れた崖の上に身を伏せ、他人事のように眺めていた。人族はどうやら戦い慣れした冒険者を雇い入れたようだった。
口火を切ったのは人族の方だった。先頭に立つ女剣士がグナースの集団に走り寄ると高く飛び上がって集団の真ん中へと飛び込み剣を振るう。美しい流れるような剣技だ。敵の動きに感心していると程なくして両者入り乱れた混戦になる。我がグナース族の短距離用火砲の音が立て続けに聞こえてくる。
オイラはそろそろ頃合いとみて長距離用火砲を地面に据えて、女剣士に照準を合わせる。今回狙うのは人族の猟師が雇った冒険者だ。一番強くて、戦況を牽引しているあの女剣士を撃ち抜けば、人族は間違いなく浮足立つ。
火砲の銃身を動かしながら、激しく動き回る女剣士から照準を外さないように追う。そのときオイラは気付いた。
「いない…」
いつもあの女剣士と行動を共にしていた魔女の姿が見えない。照準から目をはなしてキョロキョロと魔女の姿を探す。
「なるほどね。こんな遠くから狙ってたのね」
不意に背後から声を掛けられオイラは火砲を取り落とすほど動揺した。恐る恐る振り返ると魔女はオイラのすぐ後ろにいた。
魔女は尻もちを付いたまま後ずさるオイラの顔をみてニコッと笑った。そしてバチバチと雷を纏った杖でオイラを指し言った。
「さっ、大人しく観念してね」